2014/01/29

Trow model re-revisited トロウ=喜多村モデルの再・再考

喜多村和之氏の訃報(2013年12月)に接して、M.トロウ「高度情報社会の大学」の解説から、「アメリカにおける高等教育の発展段階」として図表と、続く議論から要旨を抜粋し、紹介する。

アメリカにおける高等教育発達段階

1)エリート型(elite higher education) : 限定された少数の特権としてのエリート教育
2)マス型(mass higher education) : 能力ある多数者の権利としての高等教育
3)ユニバーサル・アクセス型(universal-access higher edcatuon) : 万人の義務としての高等教育の機会の解放 第1段階・・・大学適齢期人口層への教育機会の解放 第2段階・・・全年齢人口層への教育機会の解放
4)ユニバーサル・アテンダンス型(universal-attendance)? : 万人が実質的に高校以後段階の教育機関に就学

喜多村氏の解説によれば、(4)最終段階での高等教育システムをなす主要施設は、大学に限らない。
高等教育機関と、誰でもいつでも学べる生涯教育機関(非大学機関)との組み合わせ 大学・各種学校・企業・組合・軍隊・地域団体その他
この予言はMOOCsの登場によって、現実のものとなりつつある。

ただし、最後のシナリオは、万人が大学への進学を強制される、必ずしも望まなしくない状況(ドロップ・アウト率の増加、大卒人材雇用の非正規化など)を生んでおり、大学・大学制度の構造的な見直しが検討されるべきだろう。

カーネギー高等教育審議会による、選択を迫られている方向性

1)現行の大学を中心とする高等教育システムを今後もそのまま維持していく
2)大学全員就学を目標として、これまで以上に大学制度を集中的に拡大・発展させていく
3)現行の大学制度以外の教育機関の地位や魅力をたかめ、これを大学制度に代わる教育機会のチャンネルとして活用化していく

一見、1・2のような現状維持・拡大発展モデルでも問題がないようにも見える。現に、政府の示す矢継ぎ早の方向性、改革実行の各プランは、選択と集中によって、大学制度の復権を模索しているように見える。

カーネギー審議会は、「第一、第二の方向は現行制度の欠陥を改善できないのみならず、将来の教育需要に柔軟に適応できないものだとして、第三の方向をえらぶべきだと主張」している。

最終段階に生き残る教育機関は、現行の大学だけではない、様々な形式を取る多様化の視点が、すでにトロウにより提示されている。本書が1982~1999年の間の論説であるとは、とても思えない。

最終段階の多様性

ユニバーサル・アテンダンス型
  万人が高等教育の機会に在学することが強制されるシステム
ユニバーサル・アクセス型
  万人が希望に応じて生涯のいつかの時点で高等教育の機会がひらかれるようになるシステム
ユニバーサル・パーティシペーション型
  万人が特定の場所や時間の制約なしに学習の機会を得られるようになるシステム

情報技術の発展によって高等教育へ接する機会が広がる状況で、伝統的な総合大学、研究大学の生き残りについて予断を許さないという認識は、アメリカの1990年代末の状況(!)である。


最後に、喜多村氏の言葉から、日本の大学の方向性を探る。
・・・学問の自由の雰囲気のもとで、教師と学生がフェース・トゥ・フェースでともに知識や技術を探求する組織としての大学制度は、大学が学問の水準を維持発展させ、すぐれた人材をひきつけていくならば、これに代わりうる有力な制度は今後も生じにくく、威信の高い大学は存続するばかりでなく、いっそうの反映を享受する可能性もたかい。 
二一世紀の前半までには日本の高等教育が世界の外国人学生をひきつけるだけの魅力をもちうる質的向上を達成しえなければ、学生市場は確実に他の高等教育システムに奪われることのになり、したがって、日本の高等教育が国際競争力をもちうるか否かが、日本の将来の鍵をにぎることになろう。いずれにしてもいまこそ日本の高等教育の方向を見定め、これを推進する強力な政策が求められる時期であり、トロウ教授の新著は多大の示唆に富むものと信じている。
14年後のいま、私たちはマクロ(政策レベル)の視点を持ちながらも、可能な限りの現場の実践を発信し、多くの教師と学生と市民が、協同の教育実践に取り組まなくてはならないと考えている。

過去記事: http://ed-science.blogspot.jp/2013/11/trow-model-revisited.html

2014/01/25

2/5セミナーご案内:第4回若手教員授業研究会

大学コンソーシアム石川
第4回若手教員授業研究会

日時:2014年2月5日(水)18時30分~20時30分 (18:00受付開始)
場所:金沢大学サテライト・プラザ 2階講義室

趣旨:今日の大学と教育を取り巻く状況のもとで、教育実践を日々積み重ねられていることと思います。加えて、教育活動に関する能力開発をめざすファカルティ・ディベロップメント(FD)活動の努力義務化、実施義務化を契機のひとつとして、私たちは教育能力の開発のために様々な情報を得ることができるようになってきました。
ところが、大学教育に関わるようになって10年以内の教員のフォローアップと手を取り合っての連携が、まだまだ私たち自身に必要ではないでしょうか。学生のことも授業のこともさらに学び、教育・研究に携わる者としての教育哲学・研究哲学を研鑽し成長を続けることが求められています。
 今回は、学修成果・成績評価に焦点をあて、大学の枠を超えて教育学・学習科学・専門分野の知恵を持ち寄り、語り合い学び合う「場」が、私たちの教育力の支えになればと願います。
詳細:http://ks-edu.w3.kanazawa-u.ac.jp/wakate/

2014/01/24

1/30セミナーご案内:TUNING、AHELO、高等教育質保証

金沢大学大学教育開発・支援センター
第14回評価システム研究会・第17回カリキュラム研究会

日時:2014年1月30日(木)16時30分~18時00分
場所:金沢大学角間キャンパス 総合教育1号館2階大会議室
テーマ:TUNING、AHELO、高等教育質保証
報告者:堀井祐介(大学教育開発・支援センター・教授)

趣旨:10月に一橋大学が、12月に国立教育政策研究所が主催で開催された国際シンポジウ ムではどちらもTUNINGがタイトルに挙げられていた。本研究会では、両シンポジウムでの説明資料を参考に、TUNINGについてその趣旨、仕組みについて確認するとともに、OECDが実施しているAHELO(高等教育における学習成果調査(Assessment of Higher Education Learning Outcomes)とTUNINGとの関係を通して国際的な高等教育の質保証の流れについて考えてみたい。