2018/01/23

学習科学をめぐって:学術研究と教育実践の架け橋

米国学術研究推進会議 編著『授業を変える 認知心理学のさらなる挑戦』
National Research Council (2000), "How People Learn - Brain, Mind, Experience, and School"
は、学習科学の萌芽にまとめられた1999年の研究成果の増補版である。

元となった第2版の副題には、
学術研究と教育実践の架け橋(Bridging Research and Practice)
とついているように、現代の私たちへ水路をつけてくれている。
もはや古典ともいうべき本書の示唆は、どうしてか未だによく伝わっておらず
橋を架ける担い手の不足が痛感される。

終章である第11章「今後の課題」(邦訳p.261〜)を、改めて、
「架け橋」の始点としたい。これは、私たちの明日の教育開発の目次となる。

包括的な研究課題

  1. 本書の提言を、細かい項目にいたるまで精緻化して教育関係者や教育政策の立案者が利用できるようにする。
  2. 教育実践に関わるあらゆる人々に、本書の提言をもっとも効果的な方法で伝達する。
  3. 本書で提案した学習の原理を、既存の教育実践や教育政策を評価するためのレンズとして活用する。
  4. 研究者の理論値と教師の実践知を結びつけるためには、研究者と教師が協同研究に取り組む必要がある。
  5. 教室における実践研究を進展させることは、同時に理論研究の最前線を拡張することでもある。
教材(1〜8)、教員養成・教職研修(9〜16)、教育政策(17〜21)、社会とメディア(22)、本書を超えて(23〜32)、研究成果の伝達(33)

  1. 現行のカリキュラム、教授法、評価の実践例が本書で提起した学習の原理と適合しているかどうかを検討・評価する。
  2. カリキュラム開発の進んでいない領域では、新たなカリキュラムを開発し、深い理解を測る測度により評価を行う。
  3. 形成的評価の研究をする。
  4. 幼稚園から高等学校までの公教育で共通に教えられている単元のモデル授業をビデオに記録し開発・評価する。
  5. 小規模な調査研究だけでなく大規模な評価研究も実施し、教育目標や教室内の暗黙の仮定、情報テクノロジーが学習の原理や学習の転移にかなうよう教室で適切に活用されているかどうかを評価する。
  6. 幼稚園から高等学校までの公教育で教えられている単元における主要な概念的枠組みについて、教科ごとに研究を実施する。
  7. 生徒が教室にもち込んでくる既有知識を各教科の単元ごとに同定し検討する。
  8. 教科・単元ごとにカリキュラムに関する情報を提供するための、相互交流が可能なウェブサイトを開発する。
  9. 既存の教員養成と教職研修のプログラムが学習の原理に適合しているかどうかを再検討する。
  10. 教育実践の改善につながるような教員養成・教職研修のプログラムを開発する。
  11. 管理職研修のあり方を研究する。
  12. 学習過程に関する教師の既有知識を分析研究する。
  13. 小学校、中学校、高等学校で教科を教えるために必要となる教科内容の知識の水準を教科ごとに検討する。
  14. 現在行われている教職研修のための活動の有効性を吟味する。
  15. モデルとなる教育研究所を作る。
  16. 学習の原理を現職教育の中で教師に伝達するための方法を開発する。
  17. 本書の主題に照らして、州の教育基準とその評価方法を再検討する。
  18. 生徒の学業達成度を測定するために各州で用いられている標準学力テストを本書の学習の原理に照らして比較検討する。
  19. 教師の資格と資格更新の要件について再検討する。
  20. 新しいカリキュラムの「拡張」が成功した事例を研究する。
  21. 研究成果を教育政策の立案者に効率的に伝達することに関する研究を実施する。
  22. 保護者や一般の読者のために本書の普及版を出版する。
  23. 認知、学習、指導に関する基礎知識をさらに推進する。
  24. 情報テクノロジー、神経認知科学、学習を媒介する社会文化的要因などを含む先端分野で新たな研究プロジェクトを推進する。とくに学習と学習環境の相互関係および学習と教授法の関係に関する研究が重要である。
  25. 形成的評価の改善をめざす新たな評価研究を実施する。
  26. 理科教育を改善するための基礎研究を実施する。
  27. 学習科学の研究法を洗練する。
  28. 学習科学の協同研究を促進する。
  29. 成功した創造的な教育実践を研究する。
  30. 教室における協同学習の利点と問題点を検討する。
  31. 生徒の学習活動に影響を及ぼす認知能力と動機づけ要因の関連について研究する。
  32. 知識の体制化、知識表象とその知識を学習する目的との関係について調べる。
  33. 学習科学の知識ベースに容易にアクセスできる方法をデザインし評価する。


青字は、特に教育開発者の仕事であると思われる。現実の小中高大教育における担い手となる実践的研究者・研究的実践者は、教育開発者の有力な候補であろう。