2019/12/22

カリキュラムを構成する7つの要素

授業設計を行う上で、逆向き設計と学習者中心の視座に立って、ひとつの授業を振り返りつくることが多くなっている。授業実践の省察はなかなか独りで行うことが難しいので、研修などを通して、専門分野(ディシプリン)を越えた、専門職の学びのコミュニティ(Professional Learning Community)を形成し、互いの授業実践をつくりあうことが有効であろう。

PLCの実践のなかで、しばしば出てくる課題が、いち授業では扱いきることが困難な、学生の長期にわたる学びの過程(Learning Pathway)やトランジションである。大学のなかで、複数の科目を通して、あるいは、自主学習や地域学習・サービスラーニングといった準正課プログラムを介して、フォーマル・インフォーマル・ノンフォーマルに学生は、勝手に自然に学んでいく。

溝上は、大学教育におけるカリキュラムを見る視点として、安彦1999をもとに7つの構成要素を紹介している。
... 最広義でいえば、学生の学習経験を考慮して編成されるカリキュラムが学生を育てるカリキュラムであるのだから、そのカリキュラムを見るということは、カリキュラムとしての教育計画のなかで、学生の学習経験に影響を及ぼしている要素群は何かを見るということになる。このような観点に立って、カリキュラムを構成要素に分け、その上で総合的に見ていこうとするのは安彦忠彦である。安彦は、カリキュラムを見る対象を教育計画の内部要素に求め、次の7つを挙げる(浅沼・安彦[1985]参照。各説明は安彦[1999]を参考にして大学教育版として筆者が書き直した)。
  1. 教育内容 ... 実際に教えることとした知識、技能、価値などの教育内容が、ある学年の、ある学部・学科の、ある学生(たち)に適したものであったかどうか、など教育内容の妥当性を主として問題にするもの。
  2. 組織原理 ... コア・カリキュラム、教養科目の構成次元、ある教育内容を正課教育/正課外教育として教えるか、などの組織原理を吟味するもの。
  3. 履修原理 ... ある教育内容を必修科目/選択科目とするか、外国語科目のように習得の度合を重視して能力別クラスで履修させるか、など履修のさせ方を問題にするもの。
  4. 教材 ... ある教育内容を習得する上で用いられる教科書教材、実験教材、視聴覚教材など種々の教材が、学生の学習上適切で効果的なものであったかどうかを吟味するもの。
  5. 配当日時数 ... ある授業科目(群)に配当される単位数が目標達成上十分なものであるか、学年配当や一単位時間の妥当性も含めて配当日時数が総じて効果的なものであるかどうかを問うもの。
  6. 授業形態 ... 授業で採用される種々の教授形態(一斉講義、小集団、ティーム・ティーチング、個別指導、実験・実習など)が、目標や内容、学生たちの実態に即して適切に、多彩に、柔軟に用いられているかを問題に するもの。
  7. 教授法 ... カリキュラムの一要素として含めて考える場合に、目標、内容、学生たちの実態に合わせて、適切に、効果的に選択され、工夫されているかを見るもの。
いち授業でできることできないことの自覚はしばしば困難で、また、教師自身が(教師の集団が)オープンでフラットに学ぶこと自体が、ディシプリンのサイロによって想定を保留することを難しくさせる。授業について学べば学ぶほど、授業が分からなくなるということを恐れず、『学問の「知」は人々の「命」の燃焼であったことを伝えていく』*という使命と責任に立ち返っていきたい。

 

参考

溝上慎一, カリキュラム概念の整理とカリキュラムを見る視点: アクティブ・ラーニングの検討に向けて, 京都大学高等教育研究 12, 153-16 (2006)
http://hdl.handle.net/2433/54176
* 池田輝政, ミッション・ポッシブル?―Mission Driven Researchの自己検証―, 名古屋高等教育研究, 4, 185-202 (2004)
http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/publications/journal/no4/12.pdf

2019/02/22

何が教育開発に重要なのか Defining What Matters


米国を中心とした教育開発者ネットワーク、POD Network (Professional and Organizational Development Network in Higher Education) は、断続的に、教育学習センターに対する提言を発信している。

その最新ガイドラインでは、チェックリストによって、その特徴を4つの次元「ハブ」「孵化器」「寺院」「ふるい」に分類する。以下では、枠組みをなす原理を抄訳する。

目的と範囲

(1) このガイドラインは、各センターが行う仕事を学内で可視化できるようにする、センターにおける意思決定に使われる情報としての評価を定義する。
(2) 評価はすべてのセンターが関与すべき有益な活動である。
(3) 評価は改善のための長所と改善の余地の両方を強調すべきである。
(4) 評価は重要であるが、センターの教育と業務のミッションは、依然として重要である。

文脈感受性

(5) 効果的な評価は、「文脈に束縛された実践であり、多様性を可能にする」ものである。

指標

(6) センターの評価指標には、我々の領域に共通して持たれている価値と理解も反映する必要がある。
(7) センターを評価する方略には、幅広い種類のエビデンスと方法論を用いることも必要である。
(8) 短期間(たとえば「今年は私は・・・」)と長期間(たとえば「この10年、私は・・・」)という指標が必要とされる。
(9) 学生の学習成果の達成がセンターの仕事についての、一つの可能性のあるインパクトであるが、センターのインパクトを測る唯一の指標ではない。

POD Network (2018), Defining What Matters - Guidelines for Comprehensive Center for Teaching and Learning (CTL) Evaluation
https://podnetwork.org/content/uploads/POD_CTL_Evaluation_Guidelines__2018_.pdf