2022/03/12

AI時代に求められる新しいリテラシー

リテラシーは、litera (文字)に由来する読み書き能力のことを差す。 言語学者のアウンによれば
文字や数字も、口頭での表現を記号で表し、保存したり、他人へ伝達したりすることを可能とする原初のヴァーチャル・リアリティ(VR)であり、 リテラシーは情報を伝達し、創造性に火をつける

ものであるという。

AI時代に求められる新しいリテラシーは、従来の読み書き能力に留まるものではないだろう。 ROBOT-PROOF(アウン2017=2020)は、技術リテラシーデータリテラシー ヒューマンリテラシー の3つを提案し、他者だけでなく機械ともネットワークを構築することが可能に なるということ。さらには、デジタル世界を最大限に活用できるようになることを目指している。

AIに対抗する力(ロボット耐性)として、人間にしかできない能力へ再び焦点をあてるとともに、教育が学習者をクリエーターにしていくことに注力していくことが必要であろう。

 

2019/12/22

カリキュラムを構成する7つの要素

授業設計を行う上で、逆向き設計と学習者中心の視座に立って、ひとつの授業を振り返りつくることが多くなっている。授業実践の省察はなかなか独りで行うことが難しいので、研修などを通して、専門分野(ディシプリン)を越えた、専門職の学びのコミュニティ(Professional Learning Community)を形成し、互いの授業実践をつくりあうことが有効であろう。

PLCの実践のなかで、しばしば出てくる課題が、いち授業では扱いきることが困難な、学生の長期にわたる学びの過程(Learning Pathway)やトランジションである。大学のなかで、複数の科目を通して、あるいは、自主学習や地域学習・サービスラーニングといった準正課プログラムを介して、フォーマル・インフォーマル・ノンフォーマルに学生は、勝手に自然に学んでいく。

溝上は、大学教育におけるカリキュラムを見る視点として、安彦1999をもとに7つの構成要素を紹介している。
... 最広義でいえば、学生の学習経験を考慮して編成されるカリキュラムが学生を育てるカリキュラムであるのだから、そのカリキュラムを見るということは、カリキュラムとしての教育計画のなかで、学生の学習経験に影響を及ぼしている要素群は何かを見るということになる。このような観点に立って、カリキュラムを構成要素に分け、その上で総合的に見ていこうとするのは安彦忠彦である。安彦は、カリキュラムを見る対象を教育計画の内部要素に求め、次の7つを挙げる(浅沼・安彦[1985]参照。各説明は安彦[1999]を参考にして大学教育版として筆者が書き直した)。
  1. 教育内容 ... 実際に教えることとした知識、技能、価値などの教育内容が、ある学年の、ある学部・学科の、ある学生(たち)に適したものであったかどうか、など教育内容の妥当性を主として問題にするもの。
  2. 組織原理 ... コア・カリキュラム、教養科目の構成次元、ある教育内容を正課教育/正課外教育として教えるか、などの組織原理を吟味するもの。
  3. 履修原理 ... ある教育内容を必修科目/選択科目とするか、外国語科目のように習得の度合を重視して能力別クラスで履修させるか、など履修のさせ方を問題にするもの。
  4. 教材 ... ある教育内容を習得する上で用いられる教科書教材、実験教材、視聴覚教材など種々の教材が、学生の学習上適切で効果的なものであったかどうかを吟味するもの。
  5. 配当日時数 ... ある授業科目(群)に配当される単位数が目標達成上十分なものであるか、学年配当や一単位時間の妥当性も含めて配当日時数が総じて効果的なものであるかどうかを問うもの。
  6. 授業形態 ... 授業で採用される種々の教授形態(一斉講義、小集団、ティーム・ティーチング、個別指導、実験・実習など)が、目標や内容、学生たちの実態に即して適切に、多彩に、柔軟に用いられているかを問題に するもの。
  7. 教授法 ... カリキュラムの一要素として含めて考える場合に、目標、内容、学生たちの実態に合わせて、適切に、効果的に選択され、工夫されているかを見るもの。
いち授業でできることできないことの自覚はしばしば困難で、また、教師自身が(教師の集団が)オープンでフラットに学ぶこと自体が、ディシプリンのサイロによって想定を保留することを難しくさせる。授業について学べば学ぶほど、授業が分からなくなるということを恐れず、『学問の「知」は人々の「命」の燃焼であったことを伝えていく』*という使命と責任に立ち返っていきたい。

 

参考

溝上慎一, カリキュラム概念の整理とカリキュラムを見る視点: アクティブ・ラーニングの検討に向けて, 京都大学高等教育研究 12, 153-16 (2006)
http://hdl.handle.net/2433/54176
* 池田輝政, ミッション・ポッシブル?―Mission Driven Researchの自己検証―, 名古屋高等教育研究, 4, 185-202 (2004)
http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/publications/journal/no4/12.pdf

2019/02/22

何が教育開発に重要なのか Defining What Matters


米国を中心とした教育開発者ネットワーク、POD Network (Professional and Organizational Development Network in Higher Education) は、断続的に、教育学習センターに対する提言を発信している。

その最新ガイドラインでは、チェックリストによって、その特徴を4つの次元「ハブ」「孵化器」「寺院」「ふるい」に分類する。以下では、枠組みをなす原理を抄訳する。

目的と範囲

(1) このガイドラインは、各センターが行う仕事を学内で可視化できるようにする、センターにおける意思決定に使われる情報としての評価を定義する。
(2) 評価はすべてのセンターが関与すべき有益な活動である。
(3) 評価は改善のための長所と改善の余地の両方を強調すべきである。
(4) 評価は重要であるが、センターの教育と業務のミッションは、依然として重要である。

文脈感受性

(5) 効果的な評価は、「文脈に束縛された実践であり、多様性を可能にする」ものである。

指標

(6) センターの評価指標には、我々の領域に共通して持たれている価値と理解も反映する必要がある。
(7) センターを評価する方略には、幅広い種類のエビデンスと方法論を用いることも必要である。
(8) 短期間(たとえば「今年は私は・・・」)と長期間(たとえば「この10年、私は・・・」)という指標が必要とされる。
(9) 学生の学習成果の達成がセンターの仕事についての、一つの可能性のあるインパクトであるが、センターのインパクトを測る唯一の指標ではない。

POD Network (2018), Defining What Matters - Guidelines for Comprehensive Center for Teaching and Learning (CTL) Evaluation
https://podnetwork.org/content/uploads/POD_CTL_Evaluation_Guidelines__2018_.pdf

2018/10/19

教育・学習空間を設計する5つの原理(マギル大学)

workers 
教育と学習は、教師と学生、内容・教材と教室・テクノロジーといった様々な要素の間に生じる相互作用による。学習環境の(再)設計を進めようとするとき、学生の声を聞くことから始めることは、直接的で有効な方法論の一つであろう。

マギル大学(McGill University)は、米国で行われてきた学生調査:National Survey for Student Engagement (NSSE) の成果をベースにして、教育・学習空間をデザインする原理 Principles for Designing Teaching and Learning Spaces として5項目を提案し、実際の設計や建築に活かしている。

1. 学術的な課題である / Academic challenge
2. 学生同士が学ぶ / Learning with peers
3. 教師と学生が経験する / Experiences with faculty
4. キャンパス環境 / Campus environment
5. ハイ・インパクト・プラクティス / High-Impact Practices (HIPs)

5番目のハイ・インパクト・プラクティスとは、大学の文脈に応じて学生の学習への関与(エンゲージメント)を高める授業内外の活動のことをいう。初年次教育やインターンシップ、学部生研究など、日本でも取り組みが始まったものが多い。

McGill - Teaching and Learning Services (TLS) https://www.mcgill.ca/tls/spaces/principles

Finkelstein, A., Ferris, J., Weston, C., & Winer, L. (2016). Research-Informed Principles for (Re)designing Teaching and Learning Spaces. Journal of Learning Spaces, 5(1). http://libjournal.uncg.edu/jls/article/view/1213/909

参考:大学図書館は学修支援にどう取り組むのか (2018.6.8) http://www.jaspul.org/east/conference/asset/docs/24a44ce8746b15ac7d31a7b6cdf6fd5a2d7ddbf4.pdf

2018/09/21

知っておくべき7つのこと(教授・学習編)


Wendt WisCEL: active learning lab / college.library

「7つのこと」シリーズ

大学におけるICT利活用のために活動している米国EDUCAUSEが定期的に発行している「7つのこと(7 Things You Should Know About ...)」シリーズがある。

2018年に教育・学習編が出ていたので項目のみを紹介する。古くて新しい事柄もあり、既視感が感じられる。

  1. 大学改革 Academic Transformation
  2. 学習のアクセシビリティとユニバーサルデザイン Accessibility and Universal Design for Learning
  3. ファカルティ・ディベロップメント Faculty Development
  4. プライバシーとセキュリティ Privacy and Security
  5. デジタル・情報リテラシー Digital and Information Literacy
  6. iPASS Integrated Planning and Advising for Student Success 注:アカデミックアドバイジング支援に用いられる統合分析システム
  7. インストラクショナル・デザイン Instructional Design


EDUCAUSE Learning Initiative (ELI) : 7 Things You Should Know About the 2018 Key Issues in Teaching and Learning https://library.educause.edu/resources/2018/1/7-things-you-should-know-about-the-2018-key-issues-in-teaching-and-learning